2016年10月08日

落語「鹿政談」

米朝「鹿政談」

その昔、奈良のまちでは鹿がたいへんに大事にされていて。
鹿を傷つけたり、死なせてしまったりしようものなら、厳しく処罰されたといわれています。
万が一、朝起きて、自分の家の前で「小鹿が死んでた」なんてことになると、
お奉行に呼びつけられ詮議されてしまうものだから・・・

奈良の町人たちは、みな早起きで、万一家の前で鹿の死体があったりしたら、
こそっと隣の家に運ぶもんだ、などといわれておりました。

奈良のあるところに、うそをつかないことで有名な、真面目で正直者の豆腐屋がおりました。
豆腐屋の朝は早いです、暗いうちから仕込みをしておりましたら・・・
バタンと大きな音がして、家の前には小鹿の死体が・・・

豆腐屋は、真面目なひとだったので、隣の家になすりつけるようなことはしませんでした。
明るくなって、町は大騒ぎ。
豆腐屋は奈良奉行所にしょっぴかれてしまいます。

このときの奉行が、名奉行でした。
自分が鹿を殺したわけでもないのに、言い訳一つせず、
老いた母親と子供たちのことをくれぐれも頼む、、、

そういう豆腐屋の潔い態度に心打たれた奉行は・・・
小鹿の死体を取り調べの白洲に運ばせて。

『拙者の目には犬にみえる。皆の者、どうじゃ』

鹿を強引に犬にしていまい、
豆腐屋を無罪放免で解放してあげる、という噺。


落語「鹿政談」




上方落語では珍しい人情話です。

そもそも。
江戸落語にはお武家さまがいっぱい登場しますけど、
上方落語にはお武家さまって、ほとんど出てこない。
上方落語はほとんどが町人が主人公の噺で、
たまに登場するお武家さまは「情けない武士(これがくすっと笑いを誘う)」だったりするんです。

だけど、鹿政談のお奉行様は、じつに立派。
立派なお武家さま登場、というのは、上方噺のなかでは珍しいです(笑)





この鹿政談は、いい人情噺だということで。
江戸の噺家にも人気のある噺のようで、江戸の噺家さんも多くやってます。


小三治の鹿政談を聞いたときは、仰天しました。

ちゃきちゃきの江戸弁の小三治が・・・
鹿政談に登場する町人、お奉行など、みな流ちょうな「上方弁」になるのです。


東京のひとが関西弁をしゃべると、変なイントネーションになるんですよ(笑)
東京のひとには分からないかもしれないけれど、、、
関西の人間が聞いたら許せないレベルで変(笑)



でも、小三治は違う。
まったく違和感がない。
まるで関西の噺家さん?って思うくらいに自然なのです。

さすが人間国宝。天才です。

落語「鹿政談」








この鹿政談のポイントは。
「強引な屁理屈をこねてでも、健全な判断をする」
奉行がかっこいい、という点。



おそらく江戸時代の庶民たちは・・・
お上の、多くの理不尽なことに耐えていたのでしょう。



それをスカッと晴らしてくれるひとがいたらいいのに・・・
それは庶民のささやかな願いだったのかもしれません。



それがこういう落語噺に残されています。




もしかしたら。
江戸時代も今も、根っこの部分はあんまり変わっていないのかもしれません(笑)



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Posted by おかもと社長 at 18:30│Comments(0)映画・TV・お笑い
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