2016年12月29日

樋口一葉「大つごもり」

大つごもり、というのは、大みそか、という意味です。


一葉の大つごもり、は、どうなってしまうんだろう・・・とハラハラドキドキするお話しであり。

同時に、胸が痛くなるようなお話しでもあります。



これを執筆した一葉は、当時22歳でした(驚)

樋口一葉「大つごもり」
(大つごもりによく使われる挿絵、です)



ご存じない方のために、簡単にあらすじを。



幼い時に両親を失ったお峯は、叔父の家に引き取られ、叔父に養育されるも、

18歳のときに裕福な山村家に奉公に出ることになった。

山村家では後妻の奥さまが家を取り仕切っており、

奉公人に冷たく当たることで有名であったが、お峯は辛抱づよく奉公につとめる。


ある日、暇をもらったお峯は、久しぶりに叔父の家へ帰省したところ、

叔父が病床に臥せっていて、貧苦にあえいでいた。

弟同然に育った叔父の息子三之助が、まだ8つだというのに、

行商をしながら薬代を稼いでいるありさまであった。

おまけに叔父は高利貸しから10円という多額の借金を抱えており、

大みそかには利息分の2円の返済が近づいていて困っていたのである。

そのことを知ったお峯は、奉公元の山村家奥さまから2円を前借する約束をする。


山村家の奥さまに事情を正直に話したところ・・・

大みそかの日に2円前借の件を快諾してくれたのだが。

ちょうど運の悪いことに山村家先妻の一人息子・石之助がふらりと家に帰ってくる。

石之助と後妻の奥さまとは折り合いが悪く、とたんに奥さまの機嫌が悪くなる。

というのも、後妻の奥さまが自分の産んだ娘に山村家を継がせたいという意向を持っており、

それが奥さまが取り仕切る山村家の意向でもあることを知った石之助は、

身を持ち崩した放蕩息子に成り下がっていたのである。


大みそかが近付いて。

石之助が家にいるせいで機嫌が悪くなってしまった奥さまは、

なんと2円前借のお峯との約束を反故にして、お峯との約束を踏みにじってしまう。

一方、石之助はというと、山村家亭主から50円の金の無心をして、50円を受け取っていたのである。


放蕩息子にぽんと50円を渡すような裕福な山村家ならば、

2円くらいなくなっても分からないに違いない・・・そう考えたお峯は・・・

居間のひきだしに20円の札束のあることを知っていたので・・・

ある日、奥さまたちが芝居小屋に出かけた日に、居間に忍び込む。

居間では放蕩息子の石之助がぐうぐうといびきをかいて寝ていた。

とうとうお峯は、居間のひきだしのなかから、2円を盗み取ってしまう。


その後。

石之助は、俺が年末年始にここにいたんじゃあ、みながやりづらいだろう、と言い残して、

またもぷいっと家を出てしまう。


そして、大みそかの日。。。

家中の現金精算が行われ、居間のひきだしの20円も確認することに・・・

お峯はそこから2円盗んでいるため、合うはずがない・・・

バレたら自殺するしかない、とぶるぶる震えるお峯であったが。

なんとひきだしの中には・・・あるはずの18円もなく。

『ひきだしの分も頂きました 石之助』

という書付の紙切れだけが入っていた。

山村家の亭主と奥さまはその書付をみて、やれやれということで不問にしたのである。














こういうお話しです。

どうです、これが22歳の女性が書いたストーリーです。


明治期の貧しい女性の悲哀がよく出ています。

結果としては、放蕩息子の石之助が、貧しい女中お峯を救うわけですが・・・


お峯がひきだしから金を盗んだことを石之助は知っていたのか、知らなかったのか、

作中では最後まで判然としないのがミソです。




ですが。

石之助はお峯が金を盗んだことを知っていたのです。

山村家に反発し、山村家の厄介者の俺ならば・・・

20円まるごと俺が持ち出したことにすれば、お峯に罪はかぶらない、と。



だって、石之助はすでに山村家から50円をせしめており、金には困っていませんでした。

ひきだしの20円(お峯が2円盗んでいるから実際は18円)は、不要の金です。



お峯が窃盗行為を働いたことはたしかであり。

現代でいえば、会社の金の使いこみ、にあたるわけですが。



まあ、僕はこれでも一応会社経営者ですんで・・・

山村家の亭主も奥さまも、
奉公人の事情をちゃんと汲んでやる「思いやり」が必要だろう、


そういうことを教えてくれているような気がします。

だって、一度はお峯の前借の約束を快諾してるんですから。

それを反故にする、なんてのは、ひどい仕打ちです。





ところで、大みそかってのは、いろんなお話しが残っています。

これも日本特有の文化のひとつでしょうねえ。



大みそかまで、あと2日、です。


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Posted by おかもと社長 at 11:38│Comments(0)読書
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